【BTS】すべてが移ろいゆく悲しさ。花様年華はまだこれから~Yet To Come (The Most Beautiful Moment)
2022年6月14日、BTSが公式YouTubeチャンネルで配信したコンテンツ「真・防弾会食」で、今後の方向性として、7人での活動からソロ活動中心に移行すると発言した。
活動休止ではないにしても、兵役問題もあり、7人揃ったチームでの活動は、今までのようには見られなくなるのだろう。
あっという間に大人になるアイドルたち
私は悲しかった。
個人活動へ移行するという展開は予想の範囲内なので、驚きやショックというよりは、ただただ悲しかった。悲しくて悲しくて、14日の夜は泣きながら寝た。朝になったらワイドショーが「BTS活動休止」と報じている。もう家事も会社も休んで、泣きながら寝ていたい気分だった(もちろん家事はしたし会社にも行った)。
諸行無常が、万物流転が、すべてが移ろい変わりゆくことが悲しい。
BTSがデビューしたのは2013年6月13日。9年前である。
9年間という時間は、若者にとっては長いかもしれない。だが、はっきり言おう。中高年にとって、9年前は「ついこのあいだ」なのだ。
「ついこのあいだ」、かわいい赤ん坊だった我が子が、あっという間に小学生になる。「ついこのあいだ」、まんまるの笑顔で抱き着いてくれた幼児が、あっという間に生意気な中学生になる。
「ついこのあいだ」デビューした少年たちが、あっという間に大人になり、それぞれに活躍の場を移していく。
いちファンの一方的で、勝手なわがままなのは分かっている。
BTSは7人で歌い、踊っているのが最高なんだ! その姿を見たいんだ!
馬鹿げた問いなのに、思わずにはいられない。
なぜ、人は「一番良いとき」にずっと留まっていることができないのだろう。大急ぎで、変わっていってしまうのだろう。
新型コロナが若者の貴重な時間を潰した
歳を取るほどに一年が短く感じる理由は、一説には生きてきた年数に対する一年の割合が、年々小さくなるからだという。また一説には、人生が長くなるほど新しい経験をする機会が減り、そのため時間が短く感じるようになるという。
もう人生が確定してしまった中高年には、今年も、来年も、新たな経験は特にない。去年と同じ今年や、今年と同じ来年をくり返すだけであり、平穏にくり返すことができたら御の字だったりする。
若者にとっては、一年一年は変化の連続であり、勝負の連続だ。ここでどの選択をし、どれだけ頑張れるかで人生が決まる。
新型コロナウイルスのせいで世界が止まった。被害を受けたのは若者たちだった。学校に行けなくなったり、様々なイベントが中止になったりした。人生に一度きりしかない、若者たちの貴重な時間がつぶされた。
14日にBTSが配信した「真・防弾会食」。ネット上で有志がつけてくれた日本語翻訳を読むと、BTSもまたパンデミックの被害にあったことが分かる。
2020年、BTSは「ON」のリリース後、アルバム「MAP OF THE SOUL : 7」のワールドツアーを予定していた。そしてこのツアーをもってBTSのChapter1を終了し、Chapter2を開始するつもりだった。Chapter2とはこれから始まるソロ活動中心の活動である。
しかし新型コロナウイルスによってワールドツアーが中止になり、予定が狂った。BTSは「Dynamite」をリリースし、それが世界的な大ヒットとなった。そして「Butter」「Permission to Dance」、2度にわたるグラミー賞ノミネートと、彼らの大成功は続いた。
そして2022年6月、BTSはChapter2すなわちソロ活動への移行を宣言。つまりは、新型コロナウイルスによって予定が狂ったせいで、Chapter2の開始が遅れたのである。
世間的には、コロナ禍の「Dynamite」に始まるBTSの飛躍は、華々しい大成功として記録され、記憶されるだろう。しかし、これは言い過ぎかもしれないが、メンバー本人たちにとっては予定外で、本来望んだ活動を遅らせる寄り道になってしまったのかもしれない。
BTSに救われた中高年ARMY
JIMINペン(ファン)のARMY(BTSのファン)として知られる、タレントの磯野貴理子さんが、テレビの取材に答えていた。
「BTSのおかげで新しい世界がバァーッて広がって、私の人生また始まった!」
大共感だった。私とBTSの出会いも、まさにそんな感じだった。
2020年、世界はコロナ禍の闇に覆われ、私もまた闇の中にいた。
必死で乳幼児の我が子を育てた時期が終わり、私は「もう生きていても、やることがない」と思っていた。正確には、「しなければならない義務」はたくさんあるのだが、「したくてすること」が何もないのだ。
すでに子供は意思を持ち、私とは別の人生を歩んでいる。子供に関する何かを、私のやりたいことにするわけにはいかない。
一方で、子供の手が離れても、家事を放り出すことはできない。独身の時のような自由は二度と戻らず、家事とパートの仕事が、義務として死ぬまで続く。
そして年齢的にも、経済的にも、時間的にも、できることはかなり限られている。
自由がほとんどない状況で、目指すものもなく、ただ義務を果たすためだけに生きているのが、とてもしんどかった。
そんな中、たまたま見たDynamiteのミュージックビデオ。
理屈抜きにとにかく楽しくて、何回も何回も何回も見た。
BTSのMVを見ていると心が慰められた。すごく楽しいのに、なんだか泣けてくる。
心が動かされることが久しぶりだったから、そのことに感動して泣けてくる。
特に欲しいものがなかった私が、BTSのCDやBlu-rayを買うようになった。
物を買ってウキウキするなんて、何年ぶりか分からなかった。
変化して前へと進む若者。過去に戻りたがる中高年
新規ARMYの誰もが思うことがある。それは、「もっと早くからファンになっていればよかった!」ということ。
私もできることならデビュー当時から応援していたかった。それが無理なら、一年でも、半年でも、一か月でも、もっと早くに出会いたかった。
かつてBTSは大阪にも来てくれていた。自宅近くの大阪城ホールや、当時の職場の近所のフェスティバルホールでコンサートをした。
そのころからファンでなかったことが、心から悔やまれる。
私はよく過去に戻りたがっている。
コロナ禍になってからは、2019年に戻りたいと、しょっちゅう思う。
昔の写真を見ると、子供たちは信じられないくらいかわいいし、私も若い。このころに戻って子供たちを抱きしめることができたらいいのにっ! と、地団駄を踏むような気持ちになる。
いつのころからか、過去が輝いて見えるようになった。
私の人生で最も美しい瞬間(=花様年華)が過去にあるからなのだろう。
「花様年華」とは「人生で最も美しい瞬間、青春」を意味する言葉で、BTSが2015年~2016年にリリースした3作のアルバム名(「花様年華pt.1」「花様年華pt.2」「花様年華Young Forever」)である。このアルバムシリーズは「青春3部作」といわれ非常に人気が高い。BTSは「花様年華」のころが最高であるとして、世界的人気となった今よりも、当時を懐かしむ一部ファンが存在するくらいだ。
その気持ちは分かる。若いBTSがさらに若かったころの「花様年華」コンセプトは、少年時代に特有の危うさや脆さ、儚さや切なさが表現された、当時の彼らでなければ成しえない傑作なのだ。コンサートを収録した「2016 BTS LIVE 花様年華 ON STAGE : EPILOGUE ~JAPAN EDITION~」は入手しやすい作品なので、まだの人はぜひ見て欲しい! まだ洗練しきらないBTS初期の名曲が多数収録された、鳥肌ものの名盤である。
BTSの活動は「花様年華」の後、「WINGS」、「Love Yourself」、「MAP OF THE SOUL」、そして「Permission to Dance」と展開していく。コンサートの規模は大きくなり、コンセプトは変化し、楽曲もダンスの雰囲気も変わった。
好みの問題はあれど、「花様年華」とそれ以降はどちらかが劣るわけではなく、それぞれに良さがある。より若かった「花様年華」が最高とは限らないし、より人気が出た今が最高とも限らない。
確かなのは、変化してきたし、これからも変化する、ということなのだ。
Yet To Come (The Most Beautiful Moment)
BTSの発表から2日後の6月16日、立ち直れない私の前に、一本の動画が上がった。[BTS - Yet To Come] Comeback Stage(Mnet K-POPチャンネル)。BTSが韓国の音楽番組「M COUNTDOWN」に出演し、新曲「Yet To Come」を披露した映像だった。
たくさんのランプが設置された幻想的なステージで、SUGAのピアノ演奏から曲が始まる。
周囲はアミボムの光の海である。会場には4000人の観客がいて、BTSがいるステージはその中央にあり、光の演出で浮かび上がっていた。
7人は椅子やピアノに座りながら歌う。美しすぎて息をのむ。歌唱力は磨きがかかり、ライブならではの掛け声やコーラスの完成度も高い。
「Yet To Come」は軽快であると同時に、胸が締めつけられるような切ない曲だ。リリース以来、聞けば聞くほど感動して、私の中では「Spring Day」と並ぶ泣ける曲に認定されていた。
見た時期のせいで、より感情的になっていたこともあろう。コロナ後初となる観客の歓声も胸にきた。私は衝撃的なくらい感動した。パフォーマンスはもちろん、全体的な演出も、衣装も、カメラワークまで完璧なステージだった。
そこに見たものは新しい「大人のBTS」だった。Chapter2を予期させるステージパフォーマンスだった。
私は勝手に昔を懐かしみ、今をとどめたいと願う。しかし当たり前に変化し続けるBTSは、多分、前へ進むことしか考えていない。ソロ活動への挑戦と、BTSの次の展開だ。
いちファンとして彼らのことが心配で、色々と憶測をしてしまう。しかしご本人たちが「解散ではない」「BTSを長く続けたい」と仰っているのだから、ソロ活動を、そして再結集を、信じて心待ちにしようと思う。私も前を向いて(にゃ~)。